人柱はミイラと出会う 石持浅海(324)

人柱はミイラと出会う (新潮文庫)

人柱はミイラと出会う (新潮文庫)

各編について簡単に述べる。
「人柱はミイラと出会う」:日本にホームステイするリリーは,橋の建設現場で,白い着物を着て水面下に消えていく人の姿に驚く。しばらくしてビルの「人柱」用の部屋から,ミイラ状となった死体が発見された。・・・衝撃的なスタートで,一気に引き込まれる。独特のバックグラウンドを持つ探偵の登場も,切れの良い推理も良い。

「黒衣は議場から消える」:議会の運営を助けるべき黒衣が,議事堂で死体として発見された。・・・いきなりフツーな状況となりガッカリ。何も起きていないのに殺人はする,という石持ワールドにも閉口。

「お歯黒は独身には似合わない」:リリーと同じ大学院に通う派手な学生が旅行に行く前にお歯黒に染めていた。そこから東郷が導き出した事件の可能性とは?・・・犯行のリスクとメリットのバランスが取れていないと思うのだけど,限定的な設定はうまく使ったミステリーだ。

「厄年は怪我に注意」:厄年の男女は1年間の有給休暇を取ることが推奨されている。だがリリーの大学では厄年のハズの人たちが,毎週のように事故にあっていた。・・・動機もロジックも意味不明。建物は構造的に”じん性”があるので,数箇所に木のクサビを打ち込んだ位では何も起きない。これはピラミッドでも同じ。

「鷹は大空に舞う」:警察の機動力を補う鷹匠たち。だが本来,威嚇だけを行うはずの鷹が,犯人を死に至らせる傷を負わせてしまった。・・・石持浅海の悪い癖が出ていて,探偵が個人的な正義感で正しいと思えば,殺人事件の犯人も見逃す,という結果になっている。(ネタバレだけど,犯人探しの作品じゃないので)

ミョウガは心に効くクスリ」:リリーのホームステイ先に,段ボール一杯のミョウガが送りつけられる。テロや嫌がらせを懸念した家族だが,東郷は違う答えを導き出す。・・・日本文化に関連付けて「良い話」にまとめようとしているのは分るが,苦しいし,救いも無い。

「参勤交代は知事の務め」:知事公邸の主寝室で発見された謎の百万円。そこから東郷が類推した物語とは?・・・いよいよ日本文化を関連付ける必要なし。どんどん日本文化の扱いが小さくなってくるって,企画の当初は「行ける」って思ったんだろうけど,結局,石持浅海のやりたいことが明らかになるなあ。