子を思う闇 貫井徳郎(ミステリー傑作選36から)(269)

 兄が自分の息子を殺した。残った甥を引き取ることになった。兄の子は教育のゆがみでぐれて暴力を振るうようになっていた。おっさんなどといって兄を侮辱し、殴った。兄夫婦はそれに耐えられずに殺した。兄の子には考えがあった。兄の妻は不倫していた。兄はそれを知り、不仲になった。兄の子が暴れれば二人は共同の敵を見出すことでこれからも夫婦生活を続けていけるだろうと考えた。そして自分が死ねば、その仲は一生物になる。それが手紙に送られてきた。おれの息子にも手紙が送られてきていた。それを拾ってしまう。それは、おれが兄の嫁と不倫していた事実。俺に送られてきた手紙は罪悪感を覚えさせるためのもの。息子にだけは知っていて欲しかったらしい。息子が言った。「ちゃんと読んだかい、おっさん」。息子は私にわざと手紙を見せた。