愛と幻想のファシズム(下) 村上龍(268)

愛と幻想のファシズム(下) (講談社文庫)

愛と幻想のファシズム(下) (講談社文庫)

(途中)

「そうだ、通貨だ、世間のクズ共は、精神とか思想とかいうものをまだ信じている、だが連中の精神とか思想を形作るものは、公共事業とか福祉予算とか設備投資とかそういったものなんだ、ある大作家のイマジネーションを育てたのが幼年期の下水の匂いだったとする、その下水の匂いを決定するのももちろん通過の力だ、そういううことさ」

「お前はひどいところへオレを連れ出した、オレの中にはいやなものがいっぱい詰まってるんだ」

「オレだってもう元に戻れないよ、オレはお前が作るパーツの一つになったんだ、オレは優秀なパーツになろうと努力した、オレはよくやっただろう? それともトウジはアル中で手首を切ったりしていたオレの方がいいのか?」

「恥じることなんかないんだ、誰だって感傷的になる時がある、お前はそうならずに済む方法を知っていただけなんだよ、北海道へ一緒に行った時わかった、サヴァイヴァリストというのは別に生き残りの技術に長けてるだけじゃない、それはどっちかというと結果だな、感傷の芽は次々に生まれてきて、本当はそれを払いのける方法は無いんだ、トウジみたいにこっちから感傷に近づいて一つ一つそれを潰していくしかないのさ、そういう奴が後戻りすると今まで潰してきた感傷が幽霊みたいに全部生き返って逆に一発で食われてしまうんだぜ」

「オレ達ははっきりさせようと思ったんだ、そうだろう? お前らには快楽なんか用意されていないんだぞ、と弱者にはっきり言いたかった」