海に住む少女 シュペルヴィエル(170)

海に住む少女 (光文社古典新訳文庫)

海に住む少女 (光文社古典新訳文庫)

 フランス版宮沢賢治なんだとか。
 少女・海・動物達・死後の世界・悪意・孤独を主題とした宝石箱のように美しい短編集。浮かび上がる情景がとても綺麗で、特に表題作『海に住む少女』などは匂いや音まで感じられるよう。こういうのは真似できない。真似したいけど。『バイオリンの声の少女』など、タイトルが既に神がかっている。

 沖合いで、手すりにひじをつき、物思いにふけるそこの水兵さん、夜の闇の中で愛するひとの顔をじっと思い浮かべるのも、ほどほどにしておいてくださいな。あなたのそんな思いから、とくに何もないはずの場所に、まったく人間と同じ感性を持ちながら、生きるも死ぬもままならず、愛することもできず、それでも、生き、愛し、今にも死んでしまいそうであるかのように苦しむ存在が、生まれてしまうかもしれないのです。

「(牛は無言)」

 ことがすべて落ち着くと、何億倍も孤独になったラニのそばには、<これから生きてゆくべき残りの人生>が、蛇のようにとぐろを巻いているのでした。

「忘れたんじゃないんだ。おまえの運命は、洪水前の世界で終わっているんだよ。洪水が始まった以上、もうどうしようもないんだ」