初恋 トゥルゲーネフ(171)

初恋 (光文社古典新訳文庫)

初恋 (光文社古典新訳文庫)

 少年が恋した公爵令嬢ジナイーダが少年の父と不倫をしてたっていう話なんだが、これが面白い。気まぐれで自尊心の高いジナイーダはとても複雑な性格なのだが、彼女に振り回されることこそが魅力的なのだ。少年の恋の高まりがこっちにまで伝わってくる。さらに、ジナイーダを囲む医者やら伯爵やら退役軍人やら詩人も出てきて、いっそう『初恋』の妖しい雰囲気をかもし出している。

 俗に「雀の夜」と言われる短い夏の夜で、稲妻はかたときも止むことはありあませんでした。

 ジナイーダは手をのばし、そこらへんに生えていた草を一本むしると、ちょっと噛んで、遠くへ投げてしまい、
「私のこと、とても愛してる?」と、しばらくしてからようやく言いました。「そうでしょ?」

 青春に魅力があるとしたら、その魅力の秘密は、なんでもできるというところではなく、なんでもできると思えるというところにあるのかもしれません。持てる力を、他に使いようがないまま無駄遣いしてしまう、そこにこそ青春の魅力が潜んでいるのかもしれません。