傷物語 西尾維新(167)

傷物語 (講談社BOX)

傷物語 (講談社BOX)

 阿良々木暦が高二の春休み中に吸血鬼になったという話。西尾維新のストーリーはあまり大したものでもないのに、何故これほどまでに面白く感じてしまうのか。
 名前が微妙に覚えやすい(余りに記号的で分かりやすい。分かりやすい驚愕を与えるため、記憶されやすい。キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードなど)。
 文章のリーダビリティが高い(京極夏彦を参考にしているというが)。
 ストーリーや構成そのものが安易な割りに、観点の転化が多く、これまた分かりやすい驚きに満ちている(吸血鬼が人類の敵であるという事実が、瀕死の少女を助けるという事実によって上塗りされている。こういった重複する厚みある事実をストーリーの展開によって少しずつ剥がしていく過程が西尾は異様に上手い)
 吸血鬼側にいたころには気付くことが出来なかった「吸血鬼とは人類の敵である」という事実。そのため、暦がしてきたことは人類を挫く方向に導くことだったと言う事実。この転化が一番大きいか。
 更に、何ともいえないもやもやのようなエンディング(意味意義が重複する事実というテクニックがここでも最大に発揮されていて、バッドなのかグッドなのか、一元的な判断がつかないように工夫されている)
 誰もの願いが少しずつ叶わないエンディングだった。
 人間に戻ることを願った暦は人間とも吸血鬼とも言えない中途半端な存在になり、死にたがったキスショットは他者に依存しないと生きていけないペットのようなか弱い存在に成り下がった。