永すぎた春 三島由紀夫(127)

永すぎた春 (新潮文庫)

永すぎた春 (新潮文庫)

「そう云えばそうね。皆が等分に幸福になる解決なんて、お伽噺にしかないんですもの。でも私、いつか兄も、幸福になってほしいと本気で思っているの」
「それは君のやさしさだよ。それで十分なんだ」芝の斜面の下には、四角いひろいグラウンドのところどころに霜が光ってみえ、そのかなたの大学病院の窓で、何か白い布をはたいているのが遠く、ちらと見えた。
「あっちには病人がおり、こっちにはもう数週間で結婚する二人がいる。人生ってそうしたもんさ。そうして朝は、誰にとっても朝なんだからな」