仮面の告白 三島由紀夫(126)

仮面の告白 (新潮文庫)

仮面の告白 (新潮文庫)

 この神秘な獣の金いろの目が、私をじっと魅するように見詰めてすぎると、いつかは私の傍らの家人の裾につかまって、目前の行列が私に与える恐怖に近い歓びから、折あらば逃げ出そうと構えている自分を感じた。私の人生に立向かう態度はこのころからこうだった。あまりに待たれていたもの、あまりに事前の空想で修飾されすぎたものからは、とどのつまりは逃げ出すほかに手がないのだった。