仮面山荘殺人事件 東野圭吾(147)

仮面山荘殺人事件 (講談社文庫)

仮面山荘殺人事件 (講談社文庫)

 犯人は主人公格の高之。
 製薬会社の社長の知人たちが山荘に集まって楽しもうとしていたところに、逃げてきた銀行強盗が忍び込んで皆とらえられてしまう。しかし、強盗に捕まっている事実よりも、高之の婚約者だった朋美の事故死の謎が問題の焦点となる。
 高之は朋美が障害者になったことで、朋美の知人である雪絵に乗り換えようとした。が、朋美の父は製薬会社の社長で自分もその恩恵を受けている。この関係を壊すことは出来ない。そこで、あわよくば事故死になることを望んで、朋美のピルケースの中身を睡眠薬と取り替える。はっきりとした殺意があるわけではなかった。実際にどうなるかは確率に任せ、自分が罪悪感にかられることもないように、ちょっとした細工をしただけのつもりだった。
 結局、朋美は睡眠薬に気付いて、それを飲むことはなかった。だが、自分のピルケースに細工を加えた人物が高之であることと、高之が自分を殺したがっていることに気付く。そのことに絶望した朋美は自殺同然の死を迎えた。更に彼女はピルケースの中身を雪絵からもらった本物の鎮痛薬と取り替えておいた。高之に裏切られて、死を迎えようとしてもなお、高之を愛し、彼に殺人の疑いがかからないようにしたのだ。
 山荘の事件はすべて、このような解答を導き出すためのお芝居だった。死んだはずの雪絵も、忍び込んできた強盗たちも含めてだ。
 自分自身もはっきりとわからなかった曖昧な殺意を看破された高之は仮面を失い、夜の山を下っていく。